下品短歌2009 初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空自由詠

前出の題を使ったもの以外を便宜的に自由詠と分類しました。すべてオリジナルの作品、上の句を一部変更したもの、他の歌から流用したものなどがあります。誰もが持つ下品さに形式を与えることで、下品を吐き出せる三十一文字の装置。それが下品短歌だというのに、詠み手は配慮の枠を突き抜け、下へ、下の方へと自由を目指します。

ゲレンデを全裸で滑る俺は風 嫌がるあの娘にK点着地 @T_Hash

ハタ迷惑だなぁ(笑)。犠牲者にとってこれほどの悪夢もないはずですが、「嫌がる」と分かっていながら全力で滑走ジャンプしてしまう業の深さが、開き直っていっそ心地よく感じられます。ただし、たんに開き直った変態の歌と理解するにとどまらない何かが、「K点着地」に込められてるのかも。K点(極限点)とは、人として越えてならない限度のことだとすれば、これを越えずにぴったり着地したつもりとは、「俺」の凄まじい自己制御とその世間的な無意味さを指し示します(全裸の時点でアウトです)。しかしまた、このK点をスキージャンプのそれとしてではなく、「俺」独自の用語だと考えるとどうなるでしょう。一つの解釈として、K点のKはKETSUのK。つまり、娘さんが恐怖と嫌悪のあまり咄嗟に振り上げたストックが、跳びかかる「俺」のしりあなに刺さってしまったという奇跡的な着地。狙ったあの子の反撃で自分の肛門こそが意図せざるターゲットとなってしまったこの皮肉に人生を噛みしめながら、雪上に放置されたストックの上でくるくる傘のように回っている全裸開脚男。風はどこにも辿りつけません。【くるぶしあんよ】

ラージヒルセックス。国生み神話レベルの壮大なブツが来ました。まあもちろん、まともに解釈すれば「K点着地」は比喩でしょうが、どうしてもこの作品から直感的に想起されるのは、極端にスケールのでかい釣りバカ日誌の「合体!」ですね。白銀のゲレンデを全裸で飛ぶ男の一代記はいま始まったばかりですが、着地した瞬間終わる。この作品からは、遠野サンフェイスさんの傑作

好きな娘の見てる今こそ屋上よりまんこと叫べ男一代

と同質の後戻りできない爽快さを感じます。 【mk2】

ちんちんをタクトに見立てて右左 大きく開けて歌うおくちに @phorni

短歌が三十一球で勝負が決まる野球であるならこの一首はまさに一球の重みをみせつけるような快作です。これが「タクトに見立て」という上の句に素直に乗っかっただけの作品にみえる人は、「おくち」という言葉の持つニュアンスに今一度着目してみましょう。「おくち」という言葉の示唆するコノテーション、具体的には、それは通常どういった年齢層の人間の口腔を指し示す言葉なのか……もうおわかりですね。上の句だけならばどこにでもあるごく普通の愉快な陰茎合唱団という話で済んだところを、「おくち」、もとい、実質「お」のたった一文字によって、幼稚園児阿鼻叫喚アグネス・チャン大激怒のトラウマ・サファリパークへと物語は暗転させられるのです。これぞまさに、三十一文字の文学にとっての一文字の破壊力。今回初出場のphorni 選手ですが、ストレートと見せかけていきなり内角に食い込んでくるえぐいスライダーで見事三振を奪取、新人らしからぬ勝負強さを見せてくれました。でも人としてちょっと反省したほうがいいと思います。【秋ひもの】

NHK教育の合唱コンクール放映画面を前にしてブラウン管にぺちぺちやってるのかな、と思いました。【くるぶしあんよ】

どんな状況を想像するかでじわじわ来るそのやって来かたがけっこう変わってくるリトマス試験紙のような作品。ちなみに俺はちんちんの自由な動きに目を奪われた幼女が、歌うのやめて手でちんこをぺっちんってやるようなものを想像していましたが、作品からずいぶん離れたところまで来てしまいました。すいません。【mk2】

初潮まだ? 尋ねるよりも焼き付けた空の青さと臀部の青を @aya_h

お題の上の句「初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空」をだいぶいじってますね。原型は「初潮」と「秋の空」、そして「あの日」という過去への哀惜から、赤・紅の色調でイメージしやすいものでした。この色を軸におく場合、下の句では赤系統をそのまま膨らませるか、それとも青などの色調に転じてコントラストをつけるかといった選択肢が与えられます(もちろんその他、うんこ=茶色を塗りたくる手なども)。ここで青を、つまり「初潮」に対応する幼さ・若さの色としての青を選ぶ者は、僕も含めて複数いました。
しかし本歌が抜きんでている点は、改変部分の「焼き付けた」によって「初潮」の紅を一瞬強烈にイメージさせることで、下の句の青への切り返しをじつに鮮やかなものにしていることです。さらに、眼前の少女から背後の青空へといったん向けられたまなざしが、たちまち少女に引き戻され、しかも局所へ収斂してしまうという反省のなさ。これも視界(そして純粋さと不純)の巧みな切り返しとして、色の対照と組み合わされています。それにしても、どこまでも遠く開けゆく空と、臀部を見つめ閉じゆく心。カントの「天上の星の輝きと、わが心の内なる道徳律」という言葉が裏返って響きます。 【くるぶしあんよ】

寝息立てる君をまたいで仁王立ち 股間金剛曼荼羅をイく @halciondaze
寝息立てる君をまたいで仁王立ち 便意に耐える阿修羅の形相 @kazenaga

この二つは仁王様が阿吽で二対いらっしゃるように、図らずも対の関係にあると思います。前者が阿で、欲望の曼荼羅を花開かせ、後者が吽で、じっと便意に耐えている。二つ並べると非常にありがたい感じすらしてくるような気がします。【ハゼ】

両乳首せんたくばさみがそそりたつ ドアに結わえて座して待ちます @ch1haya

ユートピア、という芸人を最近の方はご存知ないでしょう。その「楽園」の名を真っ先に思い出した作品です。せんたくばさみとドアの間を結ぶ糸は今にもピンと張り詰め、両乳首に今にも悦楽が降りてこんばかりです。けれど、嗚呼、その楽園の扉を誰が、いつ、開けてくれるのでしょうか。恋人か、想い人か、あるいはおかんか。いつ訪れるやもしれない、正座の永遠。そして何より私が危惧しているのは、そのドアは、実は内側に開くのではないか! ということです。糸はやさしく緩み、そそり立ったせんたくばさみは萎れ、そして扉を開けた主と、座した者との視線が絡み合う……ひょっとしたら、本当の狙いはそこにあるのかもしれません。【ハゼ】

モリゾーと渾名を受けた我がちんこ 繁る森林菌糸の幻想 @halciondaze
ちんちんで木魚をひとり叩く夜 ついに融合ふぐりが2コア化 @mar_sieger
夏の夜ノースリーブでいるあの娘 スターマインが照らす胸元 @phorni
両乳首せんたくばさみがそそりたつ やめてくださいフロイト先生 @TLW_kashur

下品短歌2009 仏間にて木魚を叩くこのちんこ

仏間、という響きからは古い木造家屋のじっとりとした暗さが思い浮かびます。威圧感のある仏壇。紋付袴や軍服を着た名前も知らない人たちの遺影。そんな場所で、己の逸物をまろび出す悦び。大小皮の有無問わず、基準から外れてれば逸物です。木魚と陰茎のマリアージュ。どんな音色が聴こえてくるか、そっと耳を澄ましてみませんか。

仏間にて木魚を叩くこのちんこ 母ちゃんドラム買っておくれよ @mittyan

これはもう、読んだとたんに腹筋が。ギャグ漫画のひとコマにまんまありそうな光景で、大好きです。僕のツボにはまりすぎてて説明しづらいのですが、まず下の句の話者はいったい何歳なのかと。ドラムに興味を持つだけの馬齢を重ねた若者が、母親に物をねだりながら何をしておるのかと。バイトしろと言うべきなのか、ちんこしまえと言うべきなのか、ドラム買ってもやはりちんこで叩くのかと問いただすべきなのか、ツッコミどころが多すぎて飽和。何一つ正しくありません。
ほんと母ちゃん泣くよ。……いや、もしやドラムの代わりにと木魚をあてがったのは母ちゃんという可能性も……。親子揃って仏罰もなんのその。話者と木魚で閉塞していきそうな変態空間を、母ちゃんによって突破しつついっそうどうにもならない袋小路へはまってしまった、そんな感じでしょうか。【くるぶしあんよ】

ロックンロールなこういうノリ大好き。断られた少年は家を出て我が身ひとつで鍛えたグルーヴを武器にリバプールでバンドを結成、やがて伝説的グループのドラマーとして歴史に名を残すのだった…後の「チンコ・スター」である。【遠野サンフェイス】

どうしようもねえの一言に尽きます。あと残る問題は、木魚を叩くちんこは勃起してるかしてないのか。それだけです。 【mk2】

仏間にて木魚を叩くこのちんこ ほれ貫くぞ木のオナホール @halciondaze
仏間にて木魚を叩くこのちんこ 鬼頭を刺激し遺影に顔射 @kohimeika
仏間にて木魚を叩くこのちんこ とある科学の超電磁砲 @mittyan

下品短歌2009 初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空

ちんこのない皆様、お待たせしました。今度の題は初潮です。女の子のからだの一大イベントです。秋の空、茜空。尋ねる側、尋ねられる側の紅潮。綺麗な彩りの上の句です。この上の句は特に人気が高く、数多くの下品短歌が寄せられました。帰りたい晴れた秋空のあの日はありますか。たとえ黒歴史でも、たまには帰ってみませんか。

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 両手いっぱい赤飯抱えて @tana_p

下品短歌においてもっとも重要なことは「人を描く」ことです。あなたがその三十一文字の世界に産み落とした登場人物に、「人」としてのリアリティはありますか?ネタや設定も重要ですが、読者は例えば、陰茎を握る少年が走るという事象ではなく、その彼の目尻に光る一粒の涙を見て、心動かされるものなのです。
今回の下品短歌のお題の中では、この「初潮まだ?」の上の句に、叙情とまではいえないまでも下品の中にもひらと落ちる「涙」を感じさせる作品が集中したように思います。下品短歌初参加のtana_pさんは全般的に新人離れした安定感で我々選者の注目を集めましたが、この傑作ぞろいの激戦区である「初潮まだ?」においてもその存在を強くアピールしました。初潮という言葉から赤飯への連想はありふれたものですが、「両手いっぱい」というあたたかくやわらかな言葉の絶妙な導入により、この赤飯仮面氏に、変態ではあるかもしれないが心優しく、まっすぐで憎めない、生き生きとしたパーソナリティを与えることに成功しています。満面の笑み。両手が塞がるほどに大きなお櫃にいっぱいのお赤飯。普通なら初潮が来たかどうか確認をとった後で炊飯にとりかかるべきだと思うのですが、そこに気付かない愚鈍さも含めて、血の通った愛すべき変態。しかしリアルな人間のすむ三十一文字の世界、そこで生まれる悲しみもまた真実。「おにいちゃんの気持ちはほら、こんなに、ゆげがでるほどほかほかで、こんなにおっきくて」そこまで言いかけ、恐怖に凍り付く女の子の表情に気づき、我にかえる赤飯仮面。お赤飯をお櫃ごと落ち葉の上に放り出し「ごめんよ!ごめんよ!!」と泣きながら漕ぐ白い自転車を染める夕陽は、いつもより少しだけ赤かったそうな。【秋ひもの】

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 けんけんぱーのリズムにのせて @kazenaga

実際に口ずさんでみましたけど、リズムに強引にのせてる感じが(笑)。それと同じ強引さで、見も知らぬおっさんが児童公園の子供達の中に突然割り込んできたのでしょうか。けんけんぱの仲間入りをしたつもりが、気がつけばけいどろならぬ本物の警察官とリアル鬼ごっこ。僕ならばけんけん「ぱー」で両足をばっと開くのを黙って見守ってるだけでしょうから、その勇気に乾杯です。【くるぶしあんよ】

性教育で習ったばかりの言葉が膨らむ好奇心に駆られて少年の口からふと零れてしまったのか。それが失楽園の黙示であるとさえ気付かずにいた子供時代最後の日の情景が「けんけんぱー」で胸の痛みとともに浮かび上がってくる。しにたい。【遠野サンフェイス】

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 狩られる意識死ね糞兄貴 @tomo1979

う、羨ましくなんかないぞ。ほんとだぞ。と強がってみても、兄妹の不穏で微笑ましい日常が僕の胸を刺し貫きます。ああ、いいなぁ……(指をくわえながら)。下の句の「―き」「―き」と重なる音の堅さが、上の句と対照的で事態の急転と妹さんの気の強さを感じさせます。イメージとしては、「初潮」の紅、顎を蹴り上げられて視界いっぱいに一瞬広がる「秋の空」の青、それをたちまち上書きする脳震盪の赤、そして暗転の黒、という色彩変転の妙味も楽しめます。最後の「糞兄貴」は茶色のトッピングでアクセント。さらに妹さんがスカートをはいてたなら、ブラックアウトする視界の向こうで白がチラチラと、などと想像してる僕も蹴ってもらえないかしら(指をまだくわえながら)。【くるぶしあんよ】

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 ババァは答えた 「むしろ終わった」と @mittyan

質問する相手選べよ! 俺「むしろ」っていう副詞のここまでひどい使用例見たことないですよ。ちなみについったーでこういうことをポストしたら、即座にみっちゃんからリプライが返ってきました。「誰でもいい 死ぬまでに一度聞きたかった ねぇねぇ?あのさ?初潮まだかな?」……みっちゃん……その、参加することに意義がある的な思考はどうかと思うんだ……。 【mk2】

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 更年期さえ終わる冬空 @kazenaga

同じ「終わった」がテーマになっていても、ここまで違いが出るのか、という好例です。この作品では、話者はおそらく女性。そう考えると一人の女性の過ごしてきた時間というものが、パースペクティブとして見えてくるような、静かな情景が感じ取れます。同じ上の句からここまで性質の違う作品が生まれてくる。これもまた下品短歌の醍醐味であります。あとみっちゃんのひどさが際立つ。どっちにしろ「初潮まだ?」って聞いた変態は存在しているわけですが。 【mk2】

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 なんか栓すりゃ止まるかな  @tana_p

止めてどうすんだよ。
……実はこの上の句、お題として出したのは俺だったんですけど、けっこう自信あったんですよ。変態性と情緒をうまく兼ね備えつつ、下の句の自由度も高い。その自由度が仇になりました。なにがひどいって「なんか」がひどい。コルク栓でもティッシュでもなんでもいいじゃないですかこれじゃ。初潮に対して男性が感じるロマンチシズムもそこはかとなくエロティシズムも、栓した瞬間鼻血と同レベルです。貴様はッ!初潮をッ! 嘗めたッ! いやそれだとかえって本望か。 【mk2】

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 どっちのほうがおじさんはいいの? @TLW_kashur

質問に質問で返すのは悪いことです。もうほんとに悪い子ですね。無邪気な顔して悪意を忍ばせてて。しかし、そういう悪い子に問い返されて言葉を詰まらせながら「わ、悪い子だなぁ」と魂を振るわせてしまう大人こそ悪い人。そういう人にとってこの悪い子はとてもいい子です。こうして駄目な大人を触媒に、女の子の評価は反転するのですが、大人自身の悪は変わらぬまま。そんな我が身を反省することよりも、「どっちのほうがいいんだろう?」と真剣に悩む方を選んでしまう罪深さに、人は深く共感するのでしょう。僕はどっちもOKです。【くるぶしあんよ】

初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 視聴覚室花柄ポーチ @ch1haya
初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 みみうちひとつ赤い実はじけた @halciondaze
初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空 君はわらってうそをついたね @TLW_kashur

下品短歌2009 かしゅーるくん ちんこ握って大暴走

かしゅーるくんとは、とある少年の愛称です。頭が良くて、一生懸命で、でもたまに空回りしてしまう。そんな愛すべき高校生を、こともあろうに下品短歌の題材にしてしまいました。内輪ウケです。ですが、上の句を定めた者でさえ、彼に会ったことはないのです。あなたも思い浮かべてみてください、彼の駆け抜ける姿を。

かしゅーるくん ちんこ握って大暴走 皮伸ばし待つセリヌンティウス @asita

この歌は、ある意味下品短歌の一番ストレートな切り口、ただひたすらに気持ちの悪さを追求する、という一点において群を抜いています。友のためみずからの限界を超え、千里を走るかしゅーるくん。彼は包茎なんでしょうか、その答えは我々ひとりひとりが風の中に見つけるしかありませんが、ここで唯一確かなことは、セリヌンティウスが極端な仮性包茎であるという事実、真性包茎でもカントン包茎でもなく、あくまで極端に包皮が余った仮性包茎であるという事実です。「伸ばし(つつ)待つ」という描写は友を「迎え入れる準備」を示唆します。つまりセリヌンティウスは、おのが包皮をすりばち状に整え、最後の力を振り絞って城門を駆け抜ける友の先端をそのあたたかな皮毛布でしかと包み、受け止めるつもりなのです。肛門括約筋の過剰な圧迫ではなく、あくまで優しく収縮する包皮でもって友を迎え入れたいと願うセリヌンティウスの友情。「俺があいつのために今できることは、これくらいのものさ」戦闘機の空中給油並みのタイミングと狙いの正確さが要求されるこの離れ業を成功させるため、淡々と皮を伸ばし続ける彼をみて、涙を流さない者などおりましょうか。僕です。むしろ吐きます。あと王様もたぶんすごく迷惑だったんじゃないかと思います。でもこの短歌のよさには変わりはないですね。 【秋ひもの】

かしゅーるくん ちんこ握って大暴走 こんなものさえ無ければ百合に…! @shun_tan

この題に関しては、舞台背景や小道具の設定こそ様々なアイデアが試されたものの、全体的に言って心象描写に関してはわりと一辺倒であったかに思えます。その中で、この作品は、暴走に「怒り」という動機を持たせ、(上の句に提示された派手なアクションとは裏腹に)かしゅーるくんの内面的感情に着目したという点で、他のエントリとは一線を画しています。
更に、上の句の有り余るテンションを真っ向から受け止める姿勢にも好感が持てます。ある程度技巧に自信がついてくると、つい「この激流をどうやって受け流そう」などと考えてしまいがちですが、ここは今回初参加、まったくの初心者としての強みでしょうか。前提である「暴走」を更に加速させるというアプローチに果敢に挑戦、見事な成果を収めています。
そして、これだけ大暴れしてなお七七の定型でまとめているところも憎いですね。うんこはチョコレート・ケーキの形に整えられ皿に盛られて初めて、おのが汚れの持つ新たな可能性への道を開くものです。同様に、五七五七七の魔力は下品短歌だからこそ威力を発揮するものではないでしょうか。初心者ほど定型を軽視しがち。基本の重要さを教えてくれる、王道路線の秀作と言えるでしょう。 【秋ひもの】

かしゅーるくん ちんこ握って大暴走 頭に響くトカトントニズム @TLW_kashur

トカトントニズムという響きのよい言葉は造語のようで、もともとは太宰治の「トカトントン」という作品に由来しているようです。違ってたらごめん。でも私はそういう認識なのでその前提で話を続けます。この太宰治の小説の主人公は、どんなに激情し、心打ち震えても、どこからとも無く「トカトントン」という金槌の音が聞こえた途端、白々と醒めてしまうという悩みを抱えています。すなわち、ちんこ握って大暴走する彼の中に忽然と響く「トカトントニズム」は、彼に醒めよと警鐘を鳴らしているのです。ここで着目したいのは、@TLW_kashurは、この上の句にして散々ネタとして使い倒されている「かしゅーるくん」その人であります。彼が自分の愛称をいみじくも下品短歌の上の句に使われていることに関してどう感じているのか、我々は知る由もありません。ただ、彼はこの「トカトントニズム」という言葉でもって、自他の作を問わず、歌に読まれたすべての己へ、醒めよ、と訴えかけているのだとしたら、実に壮大な並行世界の歌ではないでしょうか。【ハゼ】

かしゅーるくん ちんこ握って大暴走 自由になれた気がした15の夜 @sunface
かしゅーるくん ちんこ握って大暴走 尻をつきだすアンカーの声 @kurubushianyo
かしゅーるくん ちんこ握って大暴走 まてそのちんこはおまえのじゃない  @ ryp_a

下品短歌2009 午後3時ちんこが低くつぶやいた

午後3時、普段あなたは何をしていますか? そのとき、あなたの宝物はどうしていますか? 柔らかなボクサーショーツに包まれて眠っている。それとも、風通しのいいトランクスの中で静かに揺れている。つぶやいてくれる素敵な息子がいらっしゃらない方には、この名言をご紹介しましょう。「心のちんこを勃てろ!!」

午後3時ちんこが低くつぶやいた あれがデネブアルタイル、ベガ @ryp_a

これはこの一首の説明をする前に、上の句について触れておくべきでしょう。「午後3時」という時間は、例えば午前2時、丑三時といった時間と比べると、不確定というか、不安定な条件です。午前2時につぶやくことといえばまず大抵「死にたい」とか「寂しい」だと思うのですが、午後3時のつぶやきには、敢えていうなら中途半端な疲労感、といった共通項しか見出せません。挑戦者はこの設定をうまく生かしきるかどうかを試されているわけです。
この作品は僕には特に印象的でした。一見すると、この星座への言及は読者に夜を連想させます。満点の星空のした、きつめのブリーフからやっとのことで頭を出した彼は、澄んだ空気を胸いっぱい吸い込み、「外の世界は美しかった」、そう満足げにつぶやくのです。仮に上の句が「午前2時、ちんこが低くつぶやいた」であった場合、それはそれで十分に秀逸な作品であったといえましょう。
しかし、これはあくまで午後3時の物語です。午後3時に星は見えません。午後3時にあなたの陰茎はどうしていますか? 職場や学校などで、きつめのブリーフの中に押し込められ、息も絶え絶えになっているに違いありません。鳴り止まない電話や抜き打ちで出された漢字のテストのせいで、主人からもその存在を反故にされた午後3時の陰茎は、マッチ売りの少女が夜の闇に幻影を見るかのように、きつめのブリーフの中の闇にいつか見たあの星空を想い、息絶えるわけです。まあ学生の場合、5分後にとなりの席の女の子の脇の下からブラが覗いているのを発見してあっさり生き返ったりするけど、僕にはもうそんな青春は戻ってこない(中略)あくまでやるせない悲劇としてのこの一首、上の句自体の面白さを存分に引き出した傑作といえます。【秋ひもの】

午後3時ちんこが低くつぶやいた たまにはこっちに飲みにこないか @aya_h

世間一般の会社の定時はまあざっくり言って午後5時〜7時くらいでしょう。だから、不意にサラリーマンが、人さびしく誰かを想う時間、それが午後3時です。昼下がりと夕方の狭間のけだるい時間のように見せかけて、実に寂しい空虚な時間であります。誰よりも己の寂しさを知ってくれている我が息子の飲みの誘い。息子なのに、離れた実家に住んでいる親父の誘い方のような哀愁のセリフ回し。これには実に慰められます。しかし、彼が飲ませたいものは酒なのか、精子なのか。長年の付き合いでもそこは明かしません。かすかに緊張ただよう午後でもあります。そんな、けだるい一瞬と親しみを切り取った佳品。【ハゼ】

午後3時ちんこが低くつぶやいた おやつもおかずももうたくさんだ @kohimeka

おこめが……おめこが欲しいんだね。お姉さんの食べさせてあげるよ……さぁ来て(くぱぁ)ですねわかります。放課後ふぅタイムな青少年の即物的な倦怠や不全感が抜き飽きた年齢詐称女子高生ヌードグラビアのごとくに漂う。上手すぎ。【遠野サンフェイス】

午後3時ちんこが低くつぶやいた あした右手で未来もつかめ @ch1haya

一見シンプルながら下品短歌の潜在テーマ「雄ガキの奔放と閉塞・不逞と純情」の匂いをがっちり捉えてるうえに、上の句の内省的なトーンをそのまま推進力に転化してストレートな前向きさへと見事に突き抜けきっている。キングズロードど真ん中を往く傑作。【遠野サンフェイス】

午後3時ちんこが低くつぶやいた 無能ですまねぇ画面の外じゃ @ryp_a
午後3時ちんこが低くつぶやいた 「クイックショットそれが俺の名」 @halciondaze
午後3時ちんこが低くつぶやいた そのカルピスに混ぜて飲ませろ @phorni

今年もやります! 下品短歌2010!(予告)

2010(にーまるいちまる)ってつけるとなんでもサイバーパンクですね(挨拶)

さて、今年5月に文学フリマにて「珍古今和歌集 下品短歌2009」を頒布したのもずいぶん遠いことのような気がしますが、今年もやります、下品短歌2010! いやっふー!! どんどんどんどん!

下品短歌とは何か。


まず、すごくダメで下品な「5・7・5」の上の句を、こちらから提示します。
それに、やっぱりダメな感じの「7・7」をつけて、ひとつの短歌にする。
短歌というものがよくわからなければ、短歌風の何かでもいい。


まあ、そういう遊びです。

そもそもの考案は、mk2さんなのですが、それがえらい面白かったので、2009年度版は、私ハゼ(@HazeinHeart)が編集、同人誌にまとめさせてもらいました。

今回のバージョンもまとめた上で、冬の文学フリマにて頒布する予定です。

細かいレギュレーション(期間、ハッシュタグ、reply先)などとともに、近いうちに上の句を一斉公開します。予定では、今晩か明日の晩か明後日の晩くらいっ!

まずは見本と宣伝かねがね、2009版の下品短歌と選評をまとめて公開します。まあまあ、ゆっくり覗いていってくださいよ。

中野さんへ 「グルメ」にて


もしよければ、文学フリマ版「中野さんと僕」をお読みになってから、ご覧ください。

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目が覚めたらもう、バスの出発の時刻が過ぎていた。よりによって、北海道に出かける今日に限って。慌ててタクシーと電車を駆使して空港へ駆けつける。20分前に手荷物を預けて、15分前前に保安検査場を抜けて、搭乗口へ。お定まりのパターン。座席に身を預けて、息を吐く。隣のシートに君はいない。

500人とひとりの離陸。ジェットエンジンの排熱で歪む窓の外、ごらん、もう雲を抜けるよ、と思うもひとり。上空から見る海はエンボス加工のようだ。時折毛羽立ちのような白い波が立つ。

新千歳空港に着くのはあっという間だった。

手荷物が真っ先にベルトコンベアから流れてくる。たった一個のキャリーケース。とぼとぼとそれを引いて、三階へ上がった。レストラン街。前に一度だけ行った、地ビールの飲めるお店がなくなっている、気が、する。アテがはずれた。
朝から飲まず食わずで走ったため、何でもいいから食べたかった、けれど何かが食べたいのかまったく思いつかない。
こういう時、「何が食べたい」なんて聞く相手のいないさみしさ。
辺りを見回すと、ふと、「グルメ」という看板が目に付いた。昭和ムードのモダンな看板。サンドイッチハウスのチェーン店で、僕の故郷では駅前にあった。新幹線に乗る前に母が決まって「グルメ」のサンドイッチを買う。卵、ツナ、ローストビーフ、小さく添えられたパセリ。色とりどりが詰まった紙箱。「グルメ」のサンドイッチは晴れがましい食べ物だった。

東京に越して来てからは、しばらく見ていなかったけれど、空港の中にあったなんて。旅の思い出と密に繋がった味。

千歳空港限定だという、ホタテフライサンドとサッポロクラシックを頼んで、やっぱり、ひとり。ねえ、中野さん。僕がはじめてのデートで入った店も、「グルメ」だったんだよ。異性と一緒に何かを食べるのが恥ずかしくてね、アイスコーヒーだけ飲んで出て来ちゃったんだよ。

僕がホタテフライサンドにレモンを絞っていると、女子校高校生が通りがかった。スカートから覗く膝と、紺のハイソックスの面積が東京よりも狭い。君たちは、もっともっと丸い膝をむき出しにして、笑ってたよね。

ホタテフライサンドは、少し多かった。分けてあげたかった君は、まだ、来ない。