下品短歌2009 初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空自由詠

前出の題を使ったもの以外を便宜的に自由詠と分類しました。すべてオリジナルの作品、上の句を一部変更したもの、他の歌から流用したものなどがあります。誰もが持つ下品さに形式を与えることで、下品を吐き出せる三十一文字の装置。それが下品短歌だというのに、詠み手は配慮の枠を突き抜け、下へ、下の方へと自由を目指します。

ゲレンデを全裸で滑る俺は風 嫌がるあの娘にK点着地 @T_Hash

ハタ迷惑だなぁ(笑)。犠牲者にとってこれほどの悪夢もないはずですが、「嫌がる」と分かっていながら全力で滑走ジャンプしてしまう業の深さが、開き直っていっそ心地よく感じられます。ただし、たんに開き直った変態の歌と理解するにとどまらない何かが、「K点着地」に込められてるのかも。K点(極限点)とは、人として越えてならない限度のことだとすれば、これを越えずにぴったり着地したつもりとは、「俺」の凄まじい自己制御とその世間的な無意味さを指し示します(全裸の時点でアウトです)。しかしまた、このK点をスキージャンプのそれとしてではなく、「俺」独自の用語だと考えるとどうなるでしょう。一つの解釈として、K点のKはKETSUのK。つまり、娘さんが恐怖と嫌悪のあまり咄嗟に振り上げたストックが、跳びかかる「俺」のしりあなに刺さってしまったという奇跡的な着地。狙ったあの子の反撃で自分の肛門こそが意図せざるターゲットとなってしまったこの皮肉に人生を噛みしめながら、雪上に放置されたストックの上でくるくる傘のように回っている全裸開脚男。風はどこにも辿りつけません。【くるぶしあんよ】

ラージヒルセックス。国生み神話レベルの壮大なブツが来ました。まあもちろん、まともに解釈すれば「K点着地」は比喩でしょうが、どうしてもこの作品から直感的に想起されるのは、極端にスケールのでかい釣りバカ日誌の「合体!」ですね。白銀のゲレンデを全裸で飛ぶ男の一代記はいま始まったばかりですが、着地した瞬間終わる。この作品からは、遠野サンフェイスさんの傑作

好きな娘の見てる今こそ屋上よりまんこと叫べ男一代

と同質の後戻りできない爽快さを感じます。 【mk2】

ちんちんをタクトに見立てて右左 大きく開けて歌うおくちに @phorni

短歌が三十一球で勝負が決まる野球であるならこの一首はまさに一球の重みをみせつけるような快作です。これが「タクトに見立て」という上の句に素直に乗っかっただけの作品にみえる人は、「おくち」という言葉の持つニュアンスに今一度着目してみましょう。「おくち」という言葉の示唆するコノテーション、具体的には、それは通常どういった年齢層の人間の口腔を指し示す言葉なのか……もうおわかりですね。上の句だけならばどこにでもあるごく普通の愉快な陰茎合唱団という話で済んだところを、「おくち」、もとい、実質「お」のたった一文字によって、幼稚園児阿鼻叫喚アグネス・チャン大激怒のトラウマ・サファリパークへと物語は暗転させられるのです。これぞまさに、三十一文字の文学にとっての一文字の破壊力。今回初出場のphorni 選手ですが、ストレートと見せかけていきなり内角に食い込んでくるえぐいスライダーで見事三振を奪取、新人らしからぬ勝負強さを見せてくれました。でも人としてちょっと反省したほうがいいと思います。【秋ひもの】

NHK教育の合唱コンクール放映画面を前にしてブラウン管にぺちぺちやってるのかな、と思いました。【くるぶしあんよ】

どんな状況を想像するかでじわじわ来るそのやって来かたがけっこう変わってくるリトマス試験紙のような作品。ちなみに俺はちんちんの自由な動きに目を奪われた幼女が、歌うのやめて手でちんこをぺっちんってやるようなものを想像していましたが、作品からずいぶん離れたところまで来てしまいました。すいません。【mk2】

初潮まだ? 尋ねるよりも焼き付けた空の青さと臀部の青を @aya_h

お題の上の句「初潮まだ? 尋ねたあの日秋の空」をだいぶいじってますね。原型は「初潮」と「秋の空」、そして「あの日」という過去への哀惜から、赤・紅の色調でイメージしやすいものでした。この色を軸におく場合、下の句では赤系統をそのまま膨らませるか、それとも青などの色調に転じてコントラストをつけるかといった選択肢が与えられます(もちろんその他、うんこ=茶色を塗りたくる手なども)。ここで青を、つまり「初潮」に対応する幼さ・若さの色としての青を選ぶ者は、僕も含めて複数いました。
しかし本歌が抜きんでている点は、改変部分の「焼き付けた」によって「初潮」の紅を一瞬強烈にイメージさせることで、下の句の青への切り返しをじつに鮮やかなものにしていることです。さらに、眼前の少女から背後の青空へといったん向けられたまなざしが、たちまち少女に引き戻され、しかも局所へ収斂してしまうという反省のなさ。これも視界(そして純粋さと不純)の巧みな切り返しとして、色の対照と組み合わされています。それにしても、どこまでも遠く開けゆく空と、臀部を見つめ閉じゆく心。カントの「天上の星の輝きと、わが心の内なる道徳律」という言葉が裏返って響きます。 【くるぶしあんよ】

寝息立てる君をまたいで仁王立ち 股間金剛曼荼羅をイく @halciondaze
寝息立てる君をまたいで仁王立ち 便意に耐える阿修羅の形相 @kazenaga

この二つは仁王様が阿吽で二対いらっしゃるように、図らずも対の関係にあると思います。前者が阿で、欲望の曼荼羅を花開かせ、後者が吽で、じっと便意に耐えている。二つ並べると非常にありがたい感じすらしてくるような気がします。【ハゼ】

両乳首せんたくばさみがそそりたつ ドアに結わえて座して待ちます @ch1haya

ユートピア、という芸人を最近の方はご存知ないでしょう。その「楽園」の名を真っ先に思い出した作品です。せんたくばさみとドアの間を結ぶ糸は今にもピンと張り詰め、両乳首に今にも悦楽が降りてこんばかりです。けれど、嗚呼、その楽園の扉を誰が、いつ、開けてくれるのでしょうか。恋人か、想い人か、あるいはおかんか。いつ訪れるやもしれない、正座の永遠。そして何より私が危惧しているのは、そのドアは、実は内側に開くのではないか! ということです。糸はやさしく緩み、そそり立ったせんたくばさみは萎れ、そして扉を開けた主と、座した者との視線が絡み合う……ひょっとしたら、本当の狙いはそこにあるのかもしれません。【ハゼ】

モリゾーと渾名を受けた我がちんこ 繁る森林菌糸の幻想 @halciondaze
ちんちんで木魚をひとり叩く夜 ついに融合ふぐりが2コア化 @mar_sieger
夏の夜ノースリーブでいるあの娘 スターマインが照らす胸元 @phorni
両乳首せんたくばさみがそそりたつ やめてくださいフロイト先生 @TLW_kashur