下品短歌ラジオ第2回 ありがとうございました!

本番放送がはじまってんのに「試験放送」の文字が出たまま、前半部分が録音できていない、twitterにくじらが出る、など間抜けの限りを尽くしましたが、下品短歌ラジオは無事に終了いたしました。
下品短歌をpostしてくださった皆様、チャットにおこしくださった皆様、聴いていただいた皆様には深くお礼を申し上げます。

さて、その録音できていない前半部分にてご紹介した、なぞの下品戦士、マロビ・ブルーの寄稿があまりにも名文過ぎるので、ぜひ、ここで全文を公開させていただきます。実に熱いメッセージです。

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例えば「5千円払って言わすその言葉」という上の句がある。出題者の意図をストレートに汲むなら、それに続くのは「すごく切ない言葉」もしくは「すごくいやらしい言葉」の実質2択である。しかし敢えていおう;そこで出題者の思惑にほいと乗っかり、あなたはそれで幸せなのか?と。今このラジオを聞いているのなら、あなたも下品短歌戦士のひとり。出題者/MK2店長の手のひらで楽しく踊るも一興だが、時には氏が愕然/感嘆/混乱もしくは悲鳴をあげて逃げ出すような、下品戦士としてそんな高みを目指してもいいのではないか。

発想の壁を突破すること。本稿はそれをテーマに、下品短歌ラジオ第二回を記念して、謎のまろび戦士こと私マロビ・ブルーが寄せるものである。



曼珠沙華ぱんつに咲いた。花言葉「あきらめ」 茎は有毒である。 サンフェイス氏 @sunface

その花言葉は何か?それを問う上の句に対し、サンフェイス氏は句をばっさりと分断し、文節を再構築するという盲点攻撃で返す。鮮やか一本。しかしサンフェイス氏が非凡なのはそうした「奇抜なアイデア」をただ思いつくだけで満足せず、更にそれを「それこそが必然の形であった」と周囲に錯覚させるほど完成度の高い短歌につきつめていけることである。意中のあの子のパンツの上、「ちょっとまってよお兄さん」という拒絶の手のひらのごとく咲いた一輪の曼珠沙華。その茎は有毒、そしてその花言葉は「あきらめ」(共に事実)。完膚なきまでの拒絶。「である。」の淡々とした断定により表される、お兄さんの引きつった、精一杯のつくり笑顔。作品単体で見れば、「奇をてらう」どころかこの上なく完成された下品短歌である。

与えられた上の句に向い、さてどうやって期待を裏切ってやろうか。その期待の裏切り方の個人差が、つまりは下品短歌戦士各人の「オリジナリティー」となるわけだが、シニカルな物言いをすれば、オリジナリティーとはそのアイデアが自己の中から湧き出たものであるかどうかという問いではなく、単にそのアイデアがありふれているかどうか、という相対的な評価なのかもしれない。例えば「夕暮れの屋上だけど俺全裸」においてハルヒ的世界の終わり的エントリが頻出したが、その「頻出した」という条件下において、「世界の終わり」はいやおうなしに「凡庸」と決定させられる。壁を突破するためにはまずそこに壁ができる必要があるわけで、実際、毎度の下品短歌企画において「オリジナル」な作品が多く登場し始めるのはおおむね「オリジナルでない」作品があらかた出尽くした後半。つまり前半は、ある意味で準備運動期間とでもいうべきものである。

しかし、例外的に、ほぼ出会い頭に出題者の死角を見切り、クリティカルヒットを繰り出せるベテラン戦士もいる。



放課後の教室だけど俺全裸 「校長、ここにおられましたか」 くるぶしあんよ氏 @kurubushianyo

現時点で2千首近い投稿の中の上位100番以内というごく初期の作品でありながら、このあんよ氏のひねくれ方は見事というほかない。「全裸の俺」という極めて強い雄ガキ中二リビドー臭漂う主体を与えられていながら、それを180度裏切る「初老の紳士」の登場。そしてあんよ氏もまた、先のサンフェイス氏同様決して着想の奇抜さだけで満足することはない。校長を探していた人物、おそらくは教頭、彼のセリフも「何をしてるのですか!」の驚嘆ではなく、あくまで「ここにおられましたか」という穏やかな承認。つまり教頭も同じく全裸である、というところまで示唆するという芸の細かさは、アイデアをアイデアだけで終わらせない意思の現れである。下品短歌常連の中でもあんよ氏は特に、誰よりも先に「壁を突破する」ことを自らの使命としておられるようだ。新たな盲点を、新たな弱点を、後に続く者達のため、作品をもって示し続ける。心強い切り込み隊長である。


さて、これまでにあげた2作は、いずれもベテラン下品短歌戦士によるもので、技術的にも経験値的にも下品初心者には敷居が高いものかもしれない。しかし、私は敢えていう。少年よ、大志を抱けと。技術は後からついてくる。しかし壁を突破せんとする意思がなければ、新世界へは未来永劫辿り着けないのだ。



史上初! 南極点でするオナニー 仰向け派なの旗包み撃て しーちょ氏 @che444

しーちょ氏は今回初参加、しかも非陰茎所有者ということで、かなりのハンデを背負っている下品戦士である。にもかかわらず、かくもアンビシャスな作品に挑戦した氏の勇気に私は敬意を表したい。ざっと解説すると、旗包みとはマンガ「プロゴルファー猿」に出てくる、ドライバーで遠距離から球をポールの旗に命中させ、その旗が球にまとわりつくように球速を殺し、真下の穴に落とす、という一発逆転の大技のことである。一見したところ、この「旗包み」を打っているのは仰向け氏(以下A氏)のようでもあるが、少し考えれば、仰向けの体勢からの弾道は垂直方向であり、遠距離からの水平の弾道が直撃するという旗包みのメカニズムとは相容れないことが分かる。この条件から注意深く状況を推察すると、なんとA氏以外にもうひとり、「旗包みを打つ紳士(以下H氏)」の存在があらわになるのである。さらに、H氏が射精役と判明したのはいいとして、問題なのはA氏の役どころ。「ぼく、仰向け派なの…」といざなうA氏が、上の句の文脈上、わざわざ南極点から離れた場所で天を仰いでいるとは考えにくいため、A氏は南極点の「旗」役であると考えられる。


話を整理すると、陰茎の先に小さな旗をくくり付け、南極点と同化するA氏と、その旗目がけ発射せんとするH氏。球役のH氏はもちろん、旗役のA氏も勃起状態を維持するために激しい摩擦行為の最中。マイナス30度の極限の地での、くんずほぐれつの熱い共同作業。「耐えてくれAよ、あと少しでホールインワンだ」「ああ、信じてるさ、Hよ」内容的に見れば、今大会屈指の気持ちの悪さである。


このしーちょ氏の作品が、それの芳醇な内実を短歌という形式として完成させているかといえば、残念ながら否である。先のサンフェイス氏及びあんよ氏の作品が、構造的には非常にテクニカルであるにも関わらず、作品としては分かり易く親切であるのとは対照的に、端的に言えばこの作品は致命的に難解である。私のレベルで読む技術に長けている読者なら話は別だが、大抵の読者は、その見事なまでの変態性に気づくことなく、通り過ぎてしまうのではないか。いや、それ以前に、この作品は下品短歌という形式におさめるには、おそらく壮大すぎる。これと同じ内容を、私や前述のサンフェイス氏あんよ氏ならば14文字で表現することが可能かと問われれば、それにも否と答えざるを得ないだろう。だからこそ、かようにも大きな物語に、初参加にも関わらず果敢に挑んでみせたしーちょ氏に、私は惜しみない拍手を送りたいのである。

大切なのは、技術ではない。発想の壁に挑む勇気である。
あなたが初心者でも経験者でも構わない。
皆、果敢に壁を突破していってもらいたい。

あなたの勇気は、私が見とどける。

マロビ・ブルー

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これを、生放送で延々読み上げた私も、それを聴いてくださった皆様も、みんなどうかしている(褒め言葉)と思います。ありがとうマロビ・ブルー。