奇妙なほめあい

もう、ずいぶん前の話になってしまったが。
朝、私に先んじてポメラを購入された上司氏に「そういえば、ハゼさんはポメラ買ったの」と声をかけられたので、私は引き出しに仕舞わんとしていた鞄から、黒いマイポメラさんを抜き出して見せた。

黒は指紋がつきやすいとか、あれこれ話していると、隣席の氏も興味を持たれて、実際に目の前でひらいて見せたり、起動させてみたりした。

私と上司氏とで、ひとくさりメカニカルタッチのキーボードが打ちやすいとか、軽くて鞄に入れていると気づかないだとか、乾電池だけで動くし長持ちだとか、電車では打てるけどさすがにバスで打ったら酔った、とかわいわいと話す。臨席の氏もほうほう、それはいいですね、とひとかたない興味を示すのだが、私たちの会話は、腫れ物の周りをぐるぐると巡るように「具体的に何に使ったら便利か」という部分にちっとも踏み込まないのだ。

私たちの職場には、ポメラの活躍する出番がない。
議事録作成などが必要であれば、ノートパソコンをプロジェクタに写しながら会議を行うことが多い。かといってほかの業務も、パソコンに依存していて、純テキストエディタの出番はほぼない。

私たちは、いわば、プライベートな用途としてポメラを欲している。
私は同人ノベル屋で、昼休みになればミーティングスペースに篭って人には言えない夏コミ合わせのテキストをおりゃー! と書いている。しかし、上司氏や、隣席氏は当然それを知らない。知られたら困る。百合やぞ。

それと同じように、私もまた、彼らが何のためにポメラに強く惹かれているのか、その肝心のところを知らない。このご時世だからみんなblogでもやっているのかもしれないし、隣席氏は作曲が趣味だと聞いたことがあるから、ひょっとしたら何か歌のアイディアでも書き付けることがあるのかもしれない。

ネット経由でポメラが広まったのは、こんな背景もあるかもね、とふと思った。みんな意外にテキストを書いている。でも、それは内緒なのだ。blog経由で広まれば「blogにちょう便利」でいいのだから。

みんな、それぞれにポメラで、秘密を書きつけているのだと思ったら、妙に愉快になった。