ふつかめのポメラさん

今、私の足は、大げさでなく真っ赤に茹だりきっている。膝の下と上とで、紅白二色おめでたくくっきり塗り分けられている。皮膚がひりひりする。お風呂を沸かしている間、ポメラさんでテキストを打ち込んでいたら、江戸っ子も嫌がる熱湯風呂と化していた。ポメラさんには時をかける機能もあるらしい。実に危険だ。

ポメラさんが拙宅にお迎えして2日目。身体を経由して使う以上、すべての物には慣れ、なじみが必要だ。キーボード。車。箸。だけどポメラさんには、ほとんど慣れる必要がなかった。最初からオールオッケー。思考の背骨の辺りと、キーボードが直結されたような心持ち。


お昼休み、スターバックスポメラを広げて、メモリの中にコピーしておいた、すぐに返事をするには少々面倒くさいメールを眺める。普段、mixiに来たメッセージならmixiメッセージの入力フォームで、個人的なメールならgmailで、そして日記ならば、はてなダイヤリーの投稿フォームで打ち込むようにしている。あらかじめテキストエディタなどで書いたりはしない。エディタが備わっている媒体であればそれ準拠のものを使うという、習慣のようなものだ。

いささか厄介そうな案件だが、どう返事したものか、とパソコン上で思いあぐねて後送りした案件を、ポメラさんで読み返す。薄緑と乳白色をガラスに混ぜて均一に延ばしたような液晶と、墨黒々と、とでもいいたくなる文字色は読みやすく、フォントも親しみやすく軽すぎず、といった案配で、不思議に、パソコンでいやだな、と思った事柄に楽に立ち向かわせてくれる。

テキストを打つ以外、何の逃げ道もないからかもしれない。別のファイルを同時に開くことすらできない。背水の陣が、自然と思考を整わせてくれる。「どんなにイヤでも、とにかくはじめてしまうことが、やる気を出す方法」と、よくネットなので目にするけれど、ポメラさんはまさしくそれだ。逃げ道がないから、やる気がでる。うっかりtwitterに逃避したり、新しくきたメールに目を奪われることがない。


昔からよく使うものは自然と、人を呼ぶかのように呼んでいる。7300子。Photoshop先生。ポメラは、ポメラさん。
かといって、擬人化したりマスコットのように可愛がっているわけではない。ただ、自分の使うものを自然とそう呼んでしまう。
ファファード&グレイマウザー、というファンタジー小説のシリーズがある。彼らは自分の使う剣に名前をつける。それは剣特有の名前なのではなく、彼らがその時、戦うために手にした剣ならば、なんでも「手術刀」や「灰色杖」であって、折れてしまえば、また新たな剣が代わりに同じ名をつけられる。
ポメラさん、もまた、もしこのポメラが壊れてしまったり、新しい世代のポメラさんがやってきたとしても、きっと、ポメラさんはポメラさん。でも、ポメラ以外の機械に、ポメラさん、と呼ぶことはないだろう。2日目にして、もう、そう思う。

まだ、足がひりひりする。今日のところはこれくらいで。