Yesterday

「中野さんと僕」のエピローグにあたります。ぜひ、最後にお読みください。

 それまでのテキスト

 9月19日 9月20日 9月21日 9月22日 9月23日 9月24日






まだ、僕は、女満別から飛んで帰ってきたのが昨日のできごとのような気がしている。一昨日はまだライブのことが忘れられず、仕事の納品を一つとばした。昨晩は、ひどい下痢と嘔吐を繰り返して、まるで、僕の身体が東京に在ることを激しく拒んでいるようだった。
空が、ない。
泣きたいくらい、ここには空が見えない。智恵子じゃなくたって何度でも言ってやる。この街には空がない。空がない、空がない、空がない。ああ。

君の、夢を見た。
中野さん。君の夢を見た。

君は、エレキギターを抱いて歌っていた。フェンダームスタング。まだ身体に余る紺の制服を着て、学校の音楽室みたいなところで、黒板の前で、少し照れながら歌っていた。
どこかで聞いたことのあるバラード。
君は、それをぎゅっぎゅっと、パンチの効いたロックアレンジに変えていた。澄んだ声が紡ぐメロディ。
ビートルズ、うん、Yesterday。

いつの間にか目が覚めていた。

頬に手をやると濡れていた。血みたいにぬるりと、濡れていた。


中野さん、僕は、君の夢を見たんだ。