中野さんと国道38号

ライブが終わり、三々五々、車が駐車場から出ていく中、僕と彼女だけが暗い夜道を歩きだした。

行きに通った川沿いの道を覗いたら「げぇっ!げぇっ!」と、正体不明の鳴き声が聞こえてくる上に、熊に鼻をつままれてもわからないほどの暗さだったので、遠回りして国道を行くことにした。


ほんの3時間前とは比べものにならない、本物の澄んだ冷気。北国で育った僕には懐かしい親しい何か。中野さんは可哀想に1分に1回くらい「寒いです」を連発している。僕はさっと羽織っていたパーカーを脱いだ。半袖一枚の肌が粟立つ。最低気温4度の夜にこれは無理だ。黙ってまた着直すと、中野さんはあははと笑っていた。

橋を渡り、見慣れたファーストフードショップの並ぶあたりをすぎると、国道といえども相当暗い。人もめったに通らない。通り過ぎる車の明かりが頼もしい。歩き続けていると身体がだんだん暖まってきたようで、中野さんも少し元気になってきた。

へーへいへーへーぇいへーえーえー、と、ワンコーラス口ずさんでみる。今日のライブで演奏された曲のコーラス部分。中野さんがきれいな声で続く。しっかりした音程。少し繰り返してから、僕は三度上で、いぇーへいぇーへーえいへーへーへー とハモる。

へー へいぇーへー ぇいへーえーえー
いぇーへーえーぃえーへいえーえーえー

遠くにガソリンスタンドのうっすらとした明かり。澄んだ彼女の声と、僕のやけっぱちの声が重なる。

ほーにゃーららーうたーげーのほーにゃーにゃー

歌詞全然覚えてないじゃないですか、と笑われる。
ほーにゃらーにゃほにゃぁあらーほーにゃーほーにゃほにゃぁらー へーぇいえーへーぇいえーいえいえー。

僕らは国道と別れを告げ、陽気に坂道を登り始めた。