中野さんとコインランドリー

旅も3日目ともなれば、そろそろ洗っておきたいものもある。僕などは最初からそれを見越して荷物を少なく用意してきた。ランドリールームの前でぼんやり、ぐるぐる回る洗濯物を見つめていると、中野さんがひょいと顔を出した。そのまま僕の隣のベンチに腰掛ける。

……すごいですよね。

中野さんがぽつりと、僕たちが、つい数時間前まで観ていたバンドの名前をあげた。
あんなに小さなステージで、全身全霊を賭けるように、楽しそうに、高くへと昇るように、演奏する人を、私は初めてみました。
私もいろんなライブ見てますけど。お客さんが少ないと、どうしても、どこか気合いが弱かったり、ふてくされた演奏をする人って、多いんですよ。

乾燥機の中でぐるぐる回る僕のシャツを目で追いながら、彼女はどこか冷めた笑みを浮かべた。僕は彼女のこんな表情を見ると、ちょっとだけほっとする。よくできた女の子の見本みたいな彼女にも、他人に対して少し冷たい目をする部分があるんだな、と。

「軽音部って」

彼女が所属するその部活は2年生の先輩たち4人と彼女、たった5人で構成されているそうだ。
彼女は言う。私の代は独りしかいない。再来年、自分が3年になった時、新たな入部者を得るためには、自分が、あのバンドの人のように、先輩たちのように、人を震わせるようなギターを弾かなくてはいけないのだ、と。

「私も……先輩たちの演奏を聴いて、軽音部に入ったんです」

あんなに心も身体も賭けて一生懸命になれる音楽、一緒にやってみたいと思わせる、温かく楽しい音楽を私もやりたい。

「もし、来年誰も入部しなかったら私、弾き語りですね」

彼女は半ばそれを覚悟している風でもあった。どうやら軽音部にたくさん入部者の集まるような学校ではないらしい。

「いいじゃない、歌ってギター弾いて、足には鈴巻いてさ、講堂を踏みならしなよ、ロックだよ!!」

鈴はちょっと……とはにかむ中野さんは、それでもどこか夢見るように楽しそうだった。
明日、僕たちは網走に向かう。そこで、4日間追い続けたステージも、最後を迎える。